『シークレット・ソング』プロローグ

 世界大戦……。

地球に似た環境を持つ星「ティエラ」で起きた、 人類の歴史上、最初にして最凶の戦争である(勿論、記録に残っている物においての話だが……)。 当時は魔術の使用が今よりも盛んであり、加えて科学的な技術もそこそこに発展していたため、 戦争勃発と同時に、世界は燃え上がる炎と多くの人間の血で真っ赤に染められた。 それは、どんな大雨が降っても消えなかった程だという。

 その戦争に終止符を打ったのが、一人で一万人を倒す破壊力を持つといわれる魔術の心得を持つ 天才魔術師・アルテアであった。

 アルテアは国と国との争いの絶えなかったこの世界を、武力を以って強引に解決させた。 アルテアはまるで正義感の塊のような人物であった。しかし、目的を達成させるためには 手段を選ばないという、当時の魔術師としては特異な性格の持ち主であった。 大戦時、魔術師といわれる立場にあった人々は、概して「君子危うきに近寄らず」の精神が根付いていたため、 それとは全く対照的であったアルテアはまさに異端児と呼べる存在なのだった。 良く言えば一直線、悪く言えば単純……当時の人々はアルテアをそのように形容していた。

 国と国との大きな戦争を、たった一人で、しかしながら強力な魔力を以って この世界に平穏をもたらせたアルテア……。 敵も味方もない中立の立場をとっていたアルテアは、戦場となっていた土地を訪れては そこの兵士やら戦車やらをほんの一撃で吹っ飛ばしていた。 多くの犠牲は生まれたが、それによって長く続いた忌まわしい戦争が終結したというのもまた事実である。 そのため、今日においてもアルテアの評価は人々の間で賛否両論に分かれる。

 また、ある記録によると、アルテアは終戦直後にこのような言葉を残したと伝えられている。

「外は喜びに満ちても、私には一向に幸福は訪れてこない。 何故なら、この星――ティエラは全く喜びを感じていないようであるからだ。 複雑なアルコイズムを抱え込むこの星に手を差し伸べる者は誰もいない。 それどころか、人々はこの星に重い病を背負わせる一方である。 だから、私は多くの犠牲を作り出して、この戦いを終わらせてやったのだ。ティエラの幸福のために……」

 アルテアは晩年、人里離れた小さな村で静かに暮らし、歴史の舞台から姿を消していった。 自給自足の暮らしの中で、アルテアは誰の邪魔も入らない独りだけの時間を楽しんでいた。 その時、アルテアは大地を讃える歌をいつも歌っていたと言われている。 その歌は不思議な魔力を持つ秘密の歌(シークレット・ソング)として、今も研究が進められている。



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